古いたとえをするようだけど、俺は捕らわれた鳥。
籠の中の鳥。
檻の中の囚人。
逃げることは許されない捕らわれた人間。
一体俺が何をしたのかはわからないけど、俺はここから逃げ出せない…
≪檻≫
今日も俺は檻の中で目を覚ます。
窓一つない暗闇。
俺はここに気が遠くなるくらいの間閉じ込められている。
いつしか視力は失い、今ではもう何も見えない。
…右手が痛い。
あの日、あの人に縛られた右手。
俺が逃げ出せないように手首を縛って壁にくくりつけた。
よくわからないけど、多分、もう腐ってる。
血がとまって、紫色に変色して…
それからのことはわからない。
そのときにはすでに目が見えなくなっていたから。
だけど今でも覚えてる。
死んだ人間の色をした俺の腕。
あれが俺の腕だなんて信じられないけど、多分、絶対、あれは俺の腕。
腐りきった俺の腕。
臭い。狭い檻の中に俺の匂いが充満してる。
喚起もしないから匂いが檻の中に染み付いてる…。
腐った肉の匂いが…。
実は俺は少し驚いている。
人間って腐っても生きていけるもんなんだ…。
それとも、俺、生きてるつもりでもう死んでるのかな…?
まぁ、とにかくおかげさまで俺は腐りながら生きてる。
多分、生きてる。
食事はあの人が食べさせてくれる。
子供に食べさせるように、俺の口にスプーンを運ぶ。
あの人は随分清潔な人だから、食事の後に必ず俺を風呂に入れる。
筋肉が削げ落ちてやせ細り、まるで人形のように白く動かない俺を抱きかかえて、壊れ物を扱うように丁寧に洗う。
…なんだか風呂に入るたびに腐った肉が流れ落ちていくような気がする。
多分、気のせいなんだろうけど、なんだかそう感じる。
でももしかしたら俺の右腕はもう骨だけなのかもしれない。
…なんてな。
骨だけで生きていけるわけないよな。
…多分、そうだよな。
長かった髪もあの人に切りそろえられ、あの人好みの服を着せられ、
俺は今日もただここに座っている。
俺はかろうじて動かせる左手で頭を掻いた。
普段動くこともないから少しの動作をするだけで死にそうなくらい辛い。
少し動いただけで吐き気がする。体がバリバリいって死にそうだ…。
ボリ
ゆっくりと頭を掻いた。
わさ、と髪の毛が抜けた。
…ストレスのせいかなぁ…。
そのうちハゲになりそう…。
ハゲになったらあの人、怒るかなぁ…。
あの人、綺麗なものが好きなんだもんな…。
でも悪いことしたらあの人、遊んでくれるんだよね…。
この間俺が逃げようとしたときも、俺とままごとして遊んでくれたもんな。
あの人がお母さん、俺が料理の材料。
包丁持って俺を切りつけたよな。
ちょっと痛かったけど、すげー楽しかった。
…あぁ、退屈だなぁ…。
早くあの人こないかな…。
今日はどんな遊びをしてくれるんだろう…。
キィ
ドアの開く音が聞こえた。
きたきた…。
昔はだいっきらいだったけど、もう諦めた。
今じゃむしろ好き。
だって俺の暇つぶしをしてくれるから。
「龍麻、おはよう」
低い、あの人の声。
俺は顎を上げてあの人のほうに顔を向けた。
「あぁ、目が真っ白だな。もう視力は完全に失ったかい?くくく…」
何がおかしいのか、あの人は俺を見て笑った。
やっぱり笑われるような格好をしてるんだろうか?
俺には見えないから分からない。
「食事をもってきたよ。食べようか…ん?」
俺の髪に気づいたらしく、あの人の声が怒りに震えた。
「なんだこの髪は!!あれほど健康管理はしっかりしろと言っただろ!!」
あの人は俺をダンっと壁に押し当ててそう怒鳴った。
…よく言うよな、この部屋でどう健康を管理しろって言うんだ。
「悪い子にはお仕置きが必要だな…」
そう言ってあの人は俺を殴った。
頬がヒリヒリする。
あはは…今日は格闘技ごっこかな?
楽しいな、すごく楽しい。
そしてあの人は俺を殴りつづけた。
俺はサンドバッグの真似をしてただ殴られていればいい。
「反省してろ!!」
あの人はそう怒鳴ってバンっとドアを閉めた。
…なんだ、もう終わり?
つまらないな…。
あぁ、次はいつ遊んでくれるのかな…?
俺と遊んでよ…。
…死蝋先生…。
END
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